大判例

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札幌高等裁判所 昭和53年(ネ)93号 判決

控訴人

有限会社札幌コマ

右取締役

杉村宏

控訴人

佐藤邦男

右二名訴訟代理人

馬見州一

被控訴人

村上久平

外二名

右三名訴訟代理人

斎藤祐三

被控訴人兼右被控訴人ら

三名補助参加人

北海道

右代表者知事

堂垣内尚弘

右訴訟代理人

斎藤祐三

外五名

主文

一  控訴人らの被控訴人村上久平、同野沢政二、同阿部勝雄に対する各控訴をいずれも棄却する。

二(一)  原判決理由中の、控訴人らの被控訴人北海道に対する請求の趣旨変更の申立を許さないとした判断を取消す。

(二)  控訴人らの同被控訴人に対する訴を札幌地方裁判所に差戻す。

三  当審において、控訴人らと被控訴人村上久平、同野沢政二、同阿部勝雄との間に生じた訴訟費用及び被控訴人ら補助参加人としての北海道の参加によつて生じた費用は、いずれも控訴人らの連帯負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

(一)  被控訴人村上久平、同野沢政二、同阿部勝雄(以下、「被控訴人村上久平外二名」というときは右の被控訴人三名をいう)に対して、

1 原判決を取消す。

2 被控訴人村上久平、同野沢政二、同阿部勝雄は各自控訴人有限会社札幌コマに対し金一五〇万円及びこれに対する昭和五二年三月一八日から右支払済まで、年五分の割合による金員を、控訴人佐藤邦男に対し金三〇〇万円及びこれに対する昭和五二年三月一八日から右支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

3 控訴人らと控訴人村上久平、同野沢政二、同阿部勝雄との間に生じた訴訟費用は、第一、二審を通じて被控訴人らの負担とする。

4 仮執行の宣言。

(二)  被控訴人北海道に対して、

1 原判決理由中、控訴人らの請求の趣旨変更の申立を許さずとした判断を取消す。

2 控訴人らの被控訴人北海道に対する訴を第一審裁判所に差戻す。

二  被控訴人村上久平外二名及び被控訴人北海道

(一)  本件各控訴を棄却する。

(二)  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二  当事者双方の主張

当審で左記のとおり陳述したほかは、原判決事実摘示(原判決書二枚目裏六行目から同八枚目表四行目まで)と同一であるから、これを引用する。

(一)  控訴人らの陳述

1  控訴人らは、原審において被控訴人村上久平外二名の補助参加人北海道に対し、昭和五二年九月六日付準備書面第一「請求の趣旨変更の申立」において従来の請求の趣旨を次のとおり変更した。

「被告ら及び補助参加人は原告有限会社札幌コマに対し、連帯して金一五〇万円及びこれに対する本訴状送達の翌日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。

被告ら及び補助参加人は、原告佐藤邦男に対し連帯して金三〇〇万円及びこれに対する本訴状送達の翌日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告ら及び補助参加人の負担とする。

旨判決ならびに仮執行の宣言を求める。」

2  右「請求の趣旨変更の申立」には、実質上、北海道に対する新訴の提起を含んでいたものであり、補助参加人を新たに被告の地位に置くものであるところ、表示上「補助参加人兼被告」とすべきところを訂正し忘れたにすぎない。原裁判所は、右の点について釈明権の行使を懈怠したまま実質的に被告の地位にある北海道に対し何ら実質的な判断をなさず、単に判決理由中で原告らの請求の趣旨変更の申立を不適法として不許としたにすぎなかつた。これを控訴人らの被控訴人北海道に対する右新訴を不適法として黙示的に却下したものというべきである。よつてこれを取消したうえ民訴法三八八条により右訴を第一審裁判所に差戻すべきものである。

(二)  被控訴人北海道の陳述

1  前記(一)の1の事実は認める。

2  前記(一)の2の事実中、原判決がその理由中で控訴人らの「訴変更の申立」を不適法として不許としたことにより控訴人らの被控訴人北海道に対する訴を不適法として黙示的に却下したものであることは認めるが、その余は争う。

控訴人らは、原審において請求の趣旨変更の申立を行ない、これが補助参加人北海道を被告とする趣旨であつたと主張する。しかして、現行法上の訴の変更(民訴法二三二条)とは、裁判所と当事者の同一を前提として請求の変更のみに限られるべきであるから、補助参加人に対する新訴の提起であるというのなら、これはもはや現行法上の訴の変更ではなく、主観的追加的変更であり、当事者の変更として、現行法上許容されない不適法のものというべきである。控訴人らが主張するような当事者の変更をする場合は、新訴の提起であるから、別訴を提起する方式によるべきであり、この方式によることは一挙手一投足の労に過ぎず、偶々当該訴訟に補助参加しただけで、直ちに同一訴訟において被告とする訴の変更が認められることになれば、訴訟手続の不安定を招くばかりか、補助参加することに危惧を抱かせ、ちゆうちよさせることになり、ひいては補助参加制度の混乱をもたらすことになる。

本件のように補助参加人を被告とする新訴の提起が、訴の変更の形式で行なわれた場合、裁判所は現行法上民訴法二三三条に定めるところにしたがい、変更不許決定をなさざるを得ない。右の決定を、口頭弁論で告知するか、或いは判決の理由中でするかは、裁判所の裁量に委ねられているものであり、本件原判決においても理由中で不許決定がなされている。したがつて、原判決は、新訴の提起を不適法として却下したものと同視すべきであるから、控訴審においては、控訴人らの原審における新訴提起が不適法である以上、控訴棄却の判決がなされるべきである。

理由

一(一)  控訴人らの被控訴人村上久平外二名に対する各請求について

当裁判所も控訴人らの被控訴人村上久平外二名に対する本訴各請求はいずれも理由がなく、これを失当として棄却すべきものと判断するものであるが、その理由は、原判決理由説示(原判決書八枚目表六行目から同八枚目裏四行目まで)と同一であるから、これを引用する。

(二)  そうすると、原判決が、控訴人らの被控訴人村上久平外二名に対する本訴各請求を棄却したのは相当であり、控訴人らの被控訴人村上久平外二名に対する本件各控訴は理由がないから、民訴法第三八四条一項に則つてこれを棄却することにする。

二控訴人らの被控訴人北海道に対する請求について

(一)  本件記録によれば、控訴人らは昭和五二年三月八日に原審札幌地方裁判所に被控訴人村上久平外二名を共同被告とする本訴請求、即ち請求の趣旨を「一 被告らは、原告有限会社札幌コマに対し連帯して金一五〇万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。二 被告らは、原告佐藤邦男に対し連帯して金三〇〇万円及びこれに対する本訴状送達の翌日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。三 訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求めるものとし、請求の原因を原判決事実摘示(原判決書二枚目裏七行目から同六枚目裏二行目まで)のとおりとする損害賠償請求の訴を提起したこと、そこで北海道は昭和五二年五月四日に原審に被控訴人村上久平外二名を補助するため本件訴訟に参加する旨の申立をしたこと、被控訴人らは、昭和五二年九月六日に原裁判所に同日付の準備書面を提出したが、これには当事者として「原告佐藤邦男外一名、被告村上久平外二名、補助参加人北海道」と記載され、その第一項には、「請求の趣旨変更の申立」と題し、「原告は次のとおり請求の趣旨を変更する。一 被告ら及び補助参加人は、原告有限会社札幌コマに対し、連帯して金一五〇万円及びこれに対する本訴状送達の翌日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。二 被告ら及び補助参加人は、原告佐藤邦男に対し連帯して金三〇〇万円及びこれに対する本訴状送達の翌日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。三 訴訟費用は、被告ら及び補助参加人の負担とする。との判決並びに仮執行の宣言を求める。」と記載されていたこと、昭和五三年一月三一日午前一〇時の原審第六回口頭弁論期日において、控訴人らは右準備書面第一項に基いて陳述をし、被控訴人村上久平外二名及び被控訴人兼補助参加人北海道は、控訴人らの右申立は不適法であり、変更不許決定がなさるべきである旨陳述したこと、以上の事実が認められる。

ところで、控訴人らの前記準備書面第一項は、請求の趣旨変更の申立と題されており、また、「北海道」を「被告」とする旨の明記がないことは前判示のとおりであるが、前記準備書面の第一項の記載は、これを実質的に見れば、控訴人らは本件訴訟において被控訴人村上久平外二名のほかに北海道をも新らたな被告として、「一 被告北海道は原告有限会社札幌コマに対し金一五〇万円及びこれに対する本訴状送達の翌日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。二 被告北海道は原告佐藤邦男に対し金三〇〇万円及びこれに対する本訴状送達の翌日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。三 訴訟費用は北海道の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求める旨の新たな申立(以下、これを「本件申立」という)をしたものと解するのが相当であり、右申立が記載されている前記準備書面は、民訴法第二二四条一項所定の訴状の記載要件のうち当事者及び請求の記載を一応具備しているものということができる。そうすると、実質的にみて、右準備書面は北海道を新らたな被告とする訴状の性質をも有するものであり、控訴人らは右準備書面を原審に提出したことにより、控訴人らと被控訴人村上久平外二名との間の本件訴訟において追加的に北海道を被告として新訴を提起したものと解するのが相当である。控訴人らの弁論の全趣旨によれば、控訴人らが、右準備書面において北海道の資格を単に「補助参加人」としたのはたまたま北海道が従来被控訴人村上久平外二名の補助参加人であつたことによるものであつて、控訴人らは、右準備書面において北海道の資格を「被告兼被告村上久平外二名補助参加人」とすべきところを誤つて唯単に「補助参加人」としてしまつたものと推認される。

なお、右準備書面第一項には「請求の趣旨変更の申立」と記載あること前述のとおりであり、これによれば、本件申立は所謂訴変更の申立の如くであるが、係属中の訴訟において原告が従前からの被告以外の者を相手方として一定の裁判を求める申立をすることは、民訴法第二三二条所定の所謂訴の変更にはあたらないものと解するのが相当であり、右準備書面第一項に「請求の趣旨変更の申立」と記載されているからといつて、本件申立を前述のとおりの新訴提起とみることが妨げられるものではない。なお、右新訴の訴状としての右準備書面には右新訴についての請求の原因の記載がなく、従つて右新訴の訴状としての右準備書面は、民訴法第二二四条一項所定の訴状の記載要件を充足するものでないことが明らかであるが、訴状としての不備な点は補正の余地があり、右新訴の訴状としての右準備書面の記載が民訴法第二二四条一項所定の訴状の記載要件を充足しないからといつて、控訴人らが右準備書面を提出したことによつて右新訴を提起したものと解するのが相当であるとの前示判断が左右されるものではない。

(二) ところで、訴の所謂主観的追加的併合は、それが第一審においてなされ、且つ訴の主観的併合の要件(民訴法第五九条)及び訴の客観的併合の要件(同法二二七条)を具備する限り適法であると解するのが相当であるが、控訴人らの北海道に対する申立による新訴の提起が右の訴の主観的追加的併合の適法要件を具備するものであるか否かは、右新訴についての控訴人らの請求の原因の如何に係るものであるところ、右新訴の訴状としての前記準備書面に請求の原因の記載を欠くことは前判示のとおりであり、原審においてこれが補正されなかつたことは本件記載上明らかなので、控訴人らの被控訴人北海道に対する本件申立による新訴の提起が、訴の主観的追加的併合としての適法要件を具備するものか否かは明らかでない。しかし叙上説示したところによれば、原審としては、すべからく控訴人らに対し釈明権を行使して新訴の請求の原因を明らかにさせたうえで、訴の主観的追加的併合として提起された右新訴の適否を判断し、右新訴についての判決をなすべきであつたといわなければならない。

(三)  しかるに、原審が控訴人らの「請求の趣旨変更の申立」としての本件申立について前記の釈明権を行使した形跡は記録上認められない。而して原判決はその理由中で、右申立は補助参加人を補助参加人たる地位に置いたままこれに対して請求を行うものであつて不適法であるから許さないことにする旨の判断を示しただけで右判断の結論を主文に掲げることをしなかつたが、これによれば、原審は控訴人らの被控訴人北海道に対する本件申立による新訴を右の理由で不適法として、黙示の主文でこれを却下したものと解するのが相当である。而して叙上説示したところによれば、原審が控訴人らの右新訴につき、前記の釈明権行使を怠り、審理を尽さないままたやすくかかる結論を出したのは不当といわざるを得ない。

よつて民訴法第三八六条に則つて原判決中、控訴人らの被控訴人北海道に対する本件申立による訴を却下した黙示の主文を取消す趣旨において、原判決理由中の、控訴人らの請求の趣旨変更の申立を許さない旨の判断を取消したうえ、同法第三八八条に則つて控訴人らの被控訴人北海道に対する右訴を原審である札幌地方裁判所に差戻すこととする。〈以下、省略〉

(宮崎富哉 塩崎勤 村田達生)

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